メインロープとライフライン、なぜ2本必要?ロープ高所作業の強度基準19.0キロニュートンの根拠

オヤズナ編集部代表
監修者

オヤズナ編集部代表

オヤズナ編集部代表

高所ロープ専門の窓ガラス清掃、外壁塗装会社を専門に調査・比較する業界特化型プラットフォーム「オヤズナ」の運営者です。
高所ロープ会社での勤務経験を有し、現場視点と業界理解をもとに情報発信を行っています。また、労働安全衛生法に基づく高所作業関連講習を修了しており、安全管理および高所作業に関する基礎知識を有しています。
オヤズナでは、各社の公式サイト・公開情報・施工実績情報をもとに、「安全性(保険加入・資格情報)」「実績(創業年数・施工事例)」「対応力(エリア・階数・緊急対応)」などの独自基準でデータを整理・比較。これらのオリジナルデータベースをもとに、公平性と透明性を重視した記事制作および情報監修を行っています。

ロープアクセス業者の会社案内には「メインロープとライフラインの2系統で安全を確保」といった説明がよく登場します。

「なぜロープが1本ではなく2本必要なのか」
「その2本はどんな強度基準を満たしていなければならないのか」

この記事では、厚生労働省の通達(基発0805第1号)にまで踏み込んで、ロープ高所作業の技術的な安全基準を整理します。ロープ高所作業特別教育の対象・内容については別記事で解説しているため、ここでは「作業そのものに課された技術要件」に絞って解説します。

ロープ高所作業特別教育とフルハーネス特別教育の違いとは?対象作業・受講内容をわかりやすく解説

なぜロープが2本必要なのか

労働安全衛生規則第539条の2は、ロープ高所作業を行う事業者に対し、身体を保持するロープ(メインロープ)とは別に、安全帯を取り付けるためのロープ(ライフライン)を設けることを義務付けています。この規定は2015年8月5日に公布され、2016年1月1日から施行されました。

厚生労働省の通達によれば、この改正の背景には、ロープが外れる・ほどける、安全帯を接続していない、ロープが切断する等によって、ビルの外装清掃やのり面保護工事で死亡災害が後を絶たなかったという実態があります。

専門家による検討会(ブランコ作業における安全対策検討会)の提言を踏まえ、1本のロープに頼る作業から、2系統のロープで安全を担保する作業へと、法令上の要求水準が引き上げられました。

項目メインロープライフライン
役割身体保持器具を取り付け、常時身体を保持する安全帯を取り付ける。常時身体を保持するものではない
緊結先それぞれ異なる堅固な支持物に、外れないように確実に緊結
強度基準19.0キロニュートンの引張荷重で破断しないもの

ここで注意したいのは、ライフラインは「常時身体を保持するためのものではない」と通達に明記されている点です。

つまりメインロープが主で身体を支え続け、ライフラインは万が一メインロープが機能を失ったときに安全帯を介して墜落を止める、いわば保険としての役割を担うという設計思想です。

異なる支持物に取り付ける義務

メインロープとライフラインは、単に2本あればよいわけではありません。通達では「メインロープ及びライフラインは、それぞれ異なる支持物に、外れないように確実に緊結すること」と定められています。

同じ支持物に2本ともつないでいた場合、その支持物自体が破損すれば両方のロープが同時に機能を失ってしまうため、意味がありません。1つの支持点が万が一破損しても、もう一方が独立して機能する状態を保つことが、この規定の狙いです。

強度基準:破断荷重19.0キロニュートンの根拠

メインロープ・ライフライン・緊結具・身体保持器具といった、まとめて「メインロープ等」と呼ばれる資機材には、それぞれ具体的な強度基準が定められています。

資機材破断しないための引張荷重
メインロープ・ライフライン19.0kN
つりロープ(アイ加工部含む)19.0kN
スリング15.0kN
傾斜面用ハーネスのバックサイドベルト15.0kN
カラビナ11.5kN
垂直面用ハーネス、環・環取付部・つりベルト取付部11.5kN
グリップ・ディッセンダー(下降器)11.5kN(この荷重でメインロープの損傷等により保持機能を失わないもの)

出典: 基発0805第1号(平成27年8月5日、厚生労働省労働基準局長通達)

19.0キロニュートンは、およそ1.9トンの力に相当します。人間の体重に対して非常に大きな安全余裕を持たせた数値であり、墜落時の衝撃荷重や、ロープの経年劣化・摩耗による強度低下を見込んだうえで設定されていると考えられます。通達では、この強度を満たすロープ等を使用していれば「十分な強度を有するもの」として扱ってよいとされています。

ただし、この強度基準は新品時の話です。

通達は「著しい損傷、摩耗、変形又は腐食」がないものを使用することも求めており、事業者があらかじめ保管場所・保管方法・廃棄と交換の基準を定めておくことが望ましいとしています。

参考資料として、独立行政法人産業安全研究所(現・労働安全衛生総合研究所)がまとめた技術指針「安全帯使用指針」が挙げられており、廃棄基準についてはこうした専門機関の指針も踏まえて運用するのが実務上の標準的な対応とされています。

ロープを守る技術:切断防止・ディビエーション・リビレイ

強度のあるロープを使っていても、庇や雨樋、のり面の岩石といった突起物にロープが接触し続ければ、摩擦によって切断に至るおそれがあります。

通達は、こうした「切断のおそれのある箇所」に覆いを設けたり、ロープに養生材を巻き付けたりする「切断防止措置」を義務付けています。

さらに専門的な技術として、通達には「ディビエーション技術」と「リビレイ技術」という2つの手法が紹介されています。

  • ディビエーション技術: 別の支持物・滑車・カラビナ等を使ってメインロープの位置や方向を変え、切断のおそれのある箇所とロープが接触しないように迂回させる技術
  • リビレイ技術: 切断のおそれのある箇所の下方にある別の支持物にメインロープを再度緊結し直すことで、再緊結した箇所より上のロープにかかる荷重を軽減し、切断を避ける技術

いずれもロープアクセスの現場で実際に使われる専門技術で、単に「頑丈なロープを使う」だけでなく、ロープの取り回し自体を工夫することも法令上の安全対策として位置づけられていることが分かります。

ライフラインとして使える「リトラクタ式墜落阻止器具」

ライフラインは必ずしもロープ単体である必要はありません。通達では、ランヤードの自動ロック機能・自動緊張機能・巻取り機能を備えた「リトラクタ式墜落阻止器具」をライフラインとして使用することも認められています。

労働者の昇降にあわせてランヤードが自動的に繰り出され、墜落時には瞬時にロックがかかる仕組みで、常に適切な長さを保ちながら安全帯を接続し続けられる利点があります。

ただし、これを複数台使う場合には注意点があります。

労働者が昇降する途中でリトラクタ式墜落阻止器具を別の器具に付け替える瞬間、安全帯が一時的にどちらにも接続されていない状態になってはいけません。

通達は、フックを2本備えた「常時接続型の安全帯」を使用するなどして、付け替えの間も労働者が常にいずれかの器具に接続されている状態を保つよう求めています。この発想は、墜落制止用器具の使用で紹介した「二丁掛け」と同じ考え方です。

作業指揮者と作業開始前点検

ロープ高所作業を行う際は、事業者があらかじめ作業を指揮する者(作業指揮者)を定め、支持物への緊結や切断防止措置が正しく講じられているかを点検させるとともに、作業中の安全帯・保護帽の使用状況を監視させる義務があります。

労働者が単独で作業する場合は作業指揮者の選任は必須ではありませんが、通達は選任が望ましいとしています。

さらに、その日の作業を開始する前には、メインロープ等・安全帯・保護帽の状態を点検し、異常があれば直ちに補修または取り替えることも義務付けられています。日々の点検を怠らない体制が整っているかどうかも、業者の安全管理レベルを見極める材料になります。

ビルクリーニング・のり面工事以外は経過措置がある

やや複雑ですが、実務上重要な例外もあります。ビルクリーニング業務やのり面保護工事以外の作業(通達では橋梁・ダム・風力発電設備の調査・点検等が例示されています)については、次の2つの措置を講じることを条件に、当分の間、ライフラインの設置義務そのものが適用されないという経過措置が設けられています。

  1. メインロープを、作業箇所の上方にある異なる2以上の堅固な支持物に緊結すること
  2. 突起物のある箇所とメインロープの接触を避ける措置を講ずること

つまり、ライフラインという別系統を用意する代わりに、メインロープ自体を2つの独立した支持物に分散して緊結することで、同等の安全性を確保するという考え方です。

窓ガラス清掃や外壁調査を依頼する場合はこの経過措置の対象外で、ライフラインの設置が原則どおり必要になる点は押さえておくとよいでしょう。

「堅固な支持物」の条件と作業計画

メインロープ・ライフラインを緊結する「堅固な支持物」についても、通達は具体的な考え方を示しています。単に頑丈そうに見える構造物ではなく、「メインロープ又はライフラインに負荷させる荷重に応じた十分な強度及び構造を有する支持物」であることが要件です。

さらに、1つの支持物を複数の労働者が同時に使う場合は、同時にかかる荷重の合計に耐えられる強度が必要とされており、「何人が同時にこの支持物を使うか」まで考慮した強度設計が求められています。

こうした調査結果を踏まえて、事業者は作業計画を作成する義務を負います。作業計画には、作業の方法・順序、従事する労働者の人数、メインロープ及びライフラインを緊結する支持物の位置、使用するメインロープ等の種類・強度、それぞれの長さ、切断のおそれのある箇所とその防止措置、支持物への緊結作業中の墜落防止措置、物体の落下防止措置、労働災害発生時の応急措置という9つの事項を盛り込む必要があります。

この作業計画は事前に関係労働者へ周知することも義務付けられています。

作業前の調査は発注者にも関わる

ロープ高所作業を行う事業者には、作業箇所やその下方の状況、支持物の位置・状態、通路の状況などをあらかじめ調査し、記録しておく義務があります。

この調査結果に基づいて、支持物の位置、使用するメインロープ等の種類・強度、切断防止措置などを盛り込んだ「作業計画」を作成しなければなりません。

興味深いのは、通達がこの調査方法の一つとして「ロープ高所作業の発注者や施設の所有者・管理者等からの情報の把握」を挙げ、「調査が適切に行われるよう、事業者と発注者等との間であらかじめ必要な連絡調整を行うことが望ましい」と明記している点です。

つまり建物の構造や屋上の設備配置を最もよく知っているのは発注者側であることが多く、事前調査に協力することは、業者への「丸投げ」ではなく、法令が想定している望ましい連携のかたちだといえます。

発注担当者へ
ロープアクセス業者を選ぶ際、次の点を確認しておくと、現場の安全対策の水準が見えてきます。
  • メインロープとライフラインを、それぞれ異なる支持物に緊結する体制になっているか
  • 事前調査・作業計画の作成を行っているか(屋上設備の配置図等、発注者側からの情報提供に前向きか)
  • 作業指揮者を選任し、作業開始前点検を実施しているか
  • 建物の屋上に、ロープを緊結できる十分な強度の支持物があるかを事前に確認しているか

まとめ

メインロープとライフラインという2系統のロープは、単なる「念のため」の備えではなく、異なる支持物への緊結・具体的な強度基準・切断防止措置という3つの要件がそろって初めて機能する、法令に裏付けられた安全設計です。

発注者としては、業者の見積書や会社案内に書かれた「2本のロープで安全確保」という言葉の背景に、こうした技術的な裏付けがあることを理解しておくと、業者選定時の判断材料が一つ増えます。

また、この規定が2015年の検討会をきっかけに生まれた背景には、ビル外装清掃やのり面工事における死亡災害の多発という重い経緯があることも見逃せません。

規制はしばしば「面倒な手続き」として受け止められがちですが、この場合は現場で実際に起きた事故の積み重ねを踏まえて設計された、具体的な根拠のあるルールです。IRATA・JIRAAといった資格制度については別記事で解説していますので、あわせてご覧ください。

IRATA・JIRAAとは?ロープアクセス業者の資格・認定を発注者向けにわかりやすく解説

よくある質問

Q. メインロープとライフラインは同じ強度でなければいけませんか?
A. 通達では、どちらも19.0キロニュートンの引張荷重で破断しないことという同一の強度基準が示されています。役割は異なりますが、要求される強度自体は同水準です。

Q. ライフラインを省略できる場合はありますか?
A. ビルクリーニング業務・のり面保護工事以外の作業に限り、メインロープを2つ以上の異なる支持物に緊結し、切断防止措置を講じることを条件に、当分の間ライフラインの設置義務が適用されない経過措置があります。ただし窓ガラス清掃や外壁調査等の一般的なロープアクセス作業では、この経過措置の対象外です。

Q. 発注者は作業前の調査に何をすればいいですか?
A. 法令上、調査の実施義務は事業者(施工業者)側にありますが、通達は発注者や施設管理者からの情報提供が調査方法の一つとして想定されています。屋上の設備配置や支持物になりそうな構造物の情報を事前に共有することが、望ましい連携とされています。

Q. ディビエーション技術・リビレイ技術はどんな場面で使われますか?
A. どちらもロープが建物の庇や突起物と接触して切断するのを避けるための技術です。ディビエーション技術は滑車やカラビナでロープの経路自体を迂回させる方法、リビレイ技術は接触箇所の下方にある別の支持物にロープを再度緊結し直す方法です。建物の形状が複雑で、単純に垂直にロープを垂らせない現場で使われます。

無料で現調依頼する