外壁のタイルや塗装の浮き・剥がれと並んで、マンションやビルの外壁調査で指摘されることがあるのが「爆裂(ばくれつ)」という劣化現象です。
コンクリートの内部からボコッと盛り上がり、やがて破裂するように剥落するこの現象は、タイルの浮きとは発生のメカニズムが異なります。
なぜ爆裂が起きるのか、放置するとどうなるのか、発注者として押さえておきたいポイントをわかりやすく整理していきます。
爆裂はなぜ起きるのか
鉄筋コンクリートの内部にある鉄筋は、コンクリートの強いアルカリ性によって、本来は錆びにくい状態(不動態皮膜)に保たれています。
しかし、コンクリートは空気中の二酸化炭素と反応することで徐々にアルカリ性を失っていきます。これが「中性化」と呼ばれる劣化現象で、中性化が鉄筋の位置まで進むと、鉄筋を守っていた不動態皮膜が壊れ、鉄筋の腐食が始まります。
腐食した鉄筋は体積が膨張するため、その膨張圧がまわりのコンクリートを内側から押し広げ、最終的にコンクリート表面を破裂させるように押し出します。これが「爆裂」です。
- コンクリートが二酸化炭素と反応し、アルカリ性を失う(中性化)
- 中性化が鉄筋の位置まで進行し、鉄筋を守る不動態皮膜が壊れる
- 鉄筋の腐食が始まる
- 腐食した鉄筋が膨張し、周囲のコンクリートを押し広げる
- コンクリート表面が破裂するように押し出される(爆裂)
鉄筋までの距離(かぶり厚さ)も進行スピードを左右する
中性化が鉄筋まで到達する速さは、鉄筋の表面からコンクリート表面までの距離、いわゆる「かぶり厚さ」にも左右されます。
建築基準法施行令第79条は、鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さについて、耐力壁以外の壁または床では2センチメートル以上、耐力壁・柱・はりでは3センチメートル以上と最低限の基準を定めています。
この基準はあくまで構造上の最低限であり、実際の設計・施工では、屋外に面する柱やはりについてはこれより厚いかぶり厚さを確保するのが一般的です。
かぶり厚さが基準ぎりぎりで施工されている箇所や、施工精度のばらつきでかぶり厚さが部分的に薄くなっている箇所は、同じ建物の中でも中性化が早く鉄筋に到達し、爆裂が起きやすい弱点になり得ます。
方角によって進行スピードが変わる
国土交通省の建築基準整備促進事業として日本大学・ものつくり大学が実施した調査(平成27年度)によれば、中性化の進行速度は建物の方角によって異なり、南面・西面・北面・東面の順で大きくなる傾向が確認されています。
具体的には、南面の中性化速度は北面の約1.1〜1.7倍、西面は北面の約1.1〜1.35倍とされています。
日照時間が長く、温度変化も大きい南面・西面で中性化が進みやすいという結果は、実際の点検・調査でも、外壁のどの面から優先して確認すべきかを考える上で参考になります。
目視で気づける初期サイン
爆裂が完全に破裂してコンクリート片が落下する前の段階でも、いくつかの初期サインがあります。
外壁の目地やタイルの継ぎ目に沿って茶色っぽい錆汁(さびじる)がにじみ出ている場合、内部の鉄筋が既に腐食し始めている可能性があります。
また、タイル張りの外壁であれば、特定の箇所だけ叩くと鈍い音がする「浮き」の症状が、実は内部の爆裂の初期段階であることも珍しくありません。
発注者自身がこうした兆候を専門的に見分けるのは難しいため、錆汁や部分的な膨らみに気づいた時点で、専門業者による調査を依頼するのが現実的な対応になります。
中性化の進行度はどう調べるのか
中性化がどこまで進んでいるかを調べる代表的な方法が、フェノールフタレイン法です。
コンクリートにドリルで小さな孔を開けるか、はつり取った破片にフェノールフタレイン溶液を噴霧すると、アルカリ性が残っている部分は赤紫色に変色し、中性化した部分は変色しません。
この色の境界線から表面までの深さを測ることで、中性化がどこまで進行しているかを数値で把握できます。鉄筋の設置位置(かぶり厚さ)まで中性化が達していれば、その箇所で鉄筋腐食が始まっている可能性が高いと判断されます。
放置するとどうなるか
爆裂を放置する最大のリスクは、コンクリート片やタイルがまとまった状態で落下することです。
外壁タイルの浮き・剥がれについては落下物対策の観点から既に注意喚起が進んでいますが、爆裂はそれよりも根が深い劣化です。
タイルの表面だけでなく鉄筋そのものが腐食して断面が欠損していくため、放置期間が長くなるほど構造耐力への影響も大きくなっていきます。
表面的な補修だけでタイルを貼り直しても、内部の鉄筋腐食が止まっていなければ、同じ箇所で再び爆裂が起きる可能性があります。
法定調査でも発見される劣化現象
建築基準法12条に基づく特定建築物定期調査(全面打診等調査、おおむね10年に1回)では、打診や目視によって外壁の浮き・ひび割れ・爆裂といった劣化状況を確認します。
爆裂はこの法定調査の中で発見されることも多く、「築10年の法定調査で爆裂を指摘された」というのが典型的な発見パターンです。
中性化の進行には数十年単位の時間がかかることが多いため、築年数の古い建物ほど、法定調査のタイミングで爆裂が見つかる可能性が高くなると考えられます。
補修方法と高所作業の関係
爆裂部分の補修では、腐食した鉄筋の錆を落とし、防錆処理を施した上でコンクリートやポリマーセメントモルタル等で断面を修復する「断面修復工法」が一般的です。
また、今回取り上げた国交省系の調査では、シラン系の浸透性吸水防止剤を外壁に施すことで、中性化や鉄筋腐食の進行を抑制する効果が確認されています。新たな爆裂の発生を予防する観点では、こうした表面保護材の活用も選択肢になります。
断面修復工法そのものにも、こて等で手作業で埋め戻す左官工法、専用のポンプで補修材を注入する充填工法、吹き付けによって施工するスプレー工法など、劣化の規模や施工箇所の形状に応じていくつかの種類があります。
小規模な爆裂箇所が点在している場合は左官工法で個別に対応し、広範囲にわたる場合は吹き付け系の工法でまとめて処理するなど、劣化状況に応じた工法の使い分けが行われています。
高層マンションやビルの外壁の場合、爆裂の調査・補修箇所は高所に点在していることが多く、全面的な足場を組むか、ロープアクセスやゴンドラでピンポイントに対応するかは、劣化箇所の数や分布状況によって判断が分かれます。
外壁タイル補修の分野で無足場工法が選択肢になり得るのと同様に、爆裂の補修も、劣化箇所が局所的であれば無足場工法でのピンポイント対応がコストを抑える手段になります。
- 錆汁や部分的な膨らみが、建物のどの面(特に南面・西面)に集中しているか
- フェノールフタレイン法等で中性化深さを調査してもらえるか
- タイルの貼り直しだけでなく、鉄筋の防錆処理まで含めた補修提案か
- 劣化箇所の分布状況から、足場工法と無足場工法のどちらが合理的か
- かぶり厚さが薄い箇所(柱・はりの出隅部分等)を優先的に確認してもらえるか
大規模修繕計画の中でどう位置づけるか
マンションの大規模修繕計画において、外壁塗装の塗り替えは比較的予測しやすい周期的な工事ですが、爆裂の発生箇所・規模は建物ごとにばらつきが大きく、計画段階で正確に予測することが難しい劣化です。
このため、長期修繕計画の中では「外壁補修費」として一定の予備費を見込んでおき、実際の12条点検や外壁調査の結果を踏まえて、その都度補修範囲と費用を確定させていくという運用が現実的になります。
爆裂の発見を機に、次回の大規模修繕の時期や内容を見直す管理組合も少なくありません。
関連する制度・劣化現象もあわせて確認する
外壁の劣化や法定調査については、以下の記事でも詳しく取り上げています。
まとめ
外壁の爆裂は、コンクリートの中性化が鉄筋まで進行し、腐食した鉄筋の膨張圧でコンクリートが破裂する現象です。タイルの浮きとは発生の仕組みが異なり、鉄筋そのものの劣化が関わるため、表面的な補修だけでは再発するおそれがあります。
方角によって中性化の進行速度に差があることも分かっており、南面・西面は特に注意が必要です。
建築基準法12条点検等で爆裂を指摘された場合は、断面修復工法による適切な補修を検討し、劣化箇所の分布状況に応じて足場工法・無足場工法のどちらが合理的かを業者に相談することが実務的な進め方になります。
よくある質問
Q. 外壁の爆裂とタイルの浮きは同じものですか?
A. いいえ。タイルの浮きは主に下地とタイルの接着不良によるものですが、爆裂はコンクリート内部の鉄筋が腐食・膨張することで起きる、より構造に近い部分の劣化現象です。
Q. 爆裂はどのくらいの築年数で起きますか?
A. 中性化の進行には数十年単位の時間がかかることが多く、一概には言えませんが、建築基準法12条点検(おおむね10年に1回)のタイミングで発見されるケースがよくあります。
Q. 爆裂はどの方角で起きやすいですか?
A. 国土交通省系の調査では、中性化の進行速度は南面・西面で北面より速い傾向(南面は北面の約1.1〜1.7倍)が確認されています。
Q. 爆裂の補修は足場が必要ですか?
A. 劣化箇所が建物全体に広がっている場合は足場を組む全面補修が合理的なこともありますが、局所的な爆裂であれば、ロープアクセス等の無足場工法でピンポイント補修する選択肢もあります。
Q. 「かぶり厚さ」とは何ですか?
A. 鉄筋の表面からコンクリート表面までの距離のことです。建築基準法施行令第79条で最低限の基準(耐力壁以外の壁・床で2cm以上、耐力壁・柱・はりで3cm以上)が定められており、この厚さが薄い箇所ほど中性化が鉄筋に早く到達し、爆裂が起きやすくなります。