外壁塗装・補修の見積もりを取ると、金額と同じくらい気になるのが「結局、何日かかるのか」ではないでしょうか。
テナントが入っているビルや、住民が暮らすマンションでは、工期の長さがそのまま営業への影響・居住者への告知範囲に直結します。
結論から言うと、工期の差を生む最大の要因は、足場の組立・解体という「準備期間」の有無です。無足場工法(ロープアクセス等)は、この準備期間がまるごと不要になるため、足場工法より短期間で完工できるケースが多くなります。一方で、規模の大きい工事ほど「準備期間」自体が法律上の手続きを含むようになり、発注者が把握しておくべき期間も増えていきます。
この記事では、足場の設置にかかる日数の目安から、法律上必要になる届出の期間、無足場工法でどこまで短縮できるのか、発注者が工期を見積もる際に確認したいポイントまで整理しました。
足場の設置期間は、建物の規模で大きく変わる
足場の組立・解体にかかる日数は、建物の規模によって次のように変わるという目安が複数の業者サイトで示されています。
戸建て住宅クラスの小規模な建物の場合、組立は2〜3名の作業員で1日(6〜8時間)程度、解体は半日程度が目安です。規模が大きくなるほど日数も伸び、アパート規模で3〜4日程度、マンション規模で1〜2週間程度、オフィスビル規模で1〜3週間程度、大型の商業施設では1か月ほどという目安を示す業者もいます。建物が高く、外壁面積が広くなるほど、組立・解体にかかる日数も比例して伸びる傾向です。
外壁塗装工事全体でみると、足場の設置期間は2週間前後が目安とされています。塗装の作業そのものにかかる日数に、この足場の設置・解体期間が上乗せされる形で、全体の工期が決まる仕組みです。
マンションの場合、1階あたりの高さはおおむね3メートル前後が目安になるため、4階建て程度から足場の高さが10メートルを超えてくる計算になります。次の章で説明する届出制度の対象かどうかを見積もり段階で判断する際の、1つのおおよその目安になります。
法人・ビル規模の足場では、着工30日前の届出が必要になることがある
ビル規模の工事で意外と見落とされやすいのが、足場そのものの「設置届」です。
労働安全衛生法第88条第2項・労働安全衛生規則第85条・第86条に基づき、高さ10メートル以上の足場(つり足場・張出し足場を除く)で、組立から解体までの期間が60日以上になる場合は、工事開始日の30日前までに、所轄の労働基準監督署へ「機械等設置届」(様式第20号)を届け出なければなりません。
届出には、位置図・工程表・平面図・立面図・足場部材等明細書・構造計算書といった書類が必要です。計画の作成には、足場に係る工事の設計監理・施工管理の実務経験が3年以上ある者、一級建築士、一級土木(建築)施工管理技術検定の合格者など、一定の資格を持つ人を参画させることも求められます。
つまり、高さ10m以上かつ60日以上設置する大規模な足場工事では、発注者が見積もりを依頼してから業者が着工するまでの間に、最低でも30日分の届出準備期間を見込んでおいてください。この期間は、工事そのものの作業日数には含まれない、いわば「見えない工期」です。
30日という期間が設けられているのは、労働基準監督署が届出内容(足場の構造計算・安全対策等)を事前に審査し、必要があれば計画の変更を指示する時間を確保するためです。届出をせずに対象規模の足場を設置した場合、労働基準監督署の指導・是正勧告の対象になりかねません。業者がこの届出業務に慣れているかどうかも、大規模な足場工事を依頼する際の確認ポイントの1つになります。
無足場工法なら、この準備期間がまるごと不要になる
ロープアクセスなどの無足場工法は、足場を設置しないため、安衛法88条の届出制度そのものの対象外です。足場の組立・解体という作業自体が発生しないため、現場に到着したその日から作業に着手できます。
業者が公開している施工事例として、5階建てマンションの外壁塗装(一部劣化・クラックの部分補修+塗装)の比較が紹介されています。足場工法では足場の設置・解体に約10日かかり、全体の工期は約3〜4週間になる想定だったのに対し、ロープアクセス工法では工期が約10日間で完了し、約60%の工期短縮になったという事例です。これは特定の業者の1案件についての公開情報であり、すべての工事に同じ比率が当てはまるとは限りませんが、足場の準備期間がどれだけ工期に影響するかを示す参考例になります。
oyazunaの既存ガイド(「高所の外壁塗装の料金相場・費用目安」)でも、ロープアクセス工法は「足場不要で工期が短い」工法として整理しています。部分補修・局所的な塗装では、この工期の差が特に顕著に現れます。
工期が短くなる構造的な理由は、準備期間の有無だけではありません。足場工法では、足場材・養生シートといった資材の搬入・搬出に車両とスペースが必要で、組立・解体にも相応の人数が必要です。これに対しロープアクセスは、ロープ・アンカー金物・墜落制止用器具といった比較的小型の資材を作業員自身が運び込むため、現場の立ち上げにかかる手間自体が小さくなります。少人数(1〜2名体制)で着手できる作業が多いことも、小規模な部分補修・点検の工期を短くする一因です。
無足場工法にも工期を左右する限界がある
無足場工法が常に足場工法より早く終わるとは限りません。
ロープアクセスは強風・雨に弱く、作業が中断されやすい工法です。足場工法は養生シートによって一定の耐候性を確保できますが、無足場工法にはその手段がなく、天候次第で作業日数が延びることも想定しておいてください。悪天候時の中止基準については、別記事「高所作業は風速何メートルで中止?4工法の基準を比較」で詳しく解説しています。
また、建物全周にわたる大規模な全面塗装のように作業範囲が広い場合、足場であれば複数の作業員が同時に異なる面で作業できますが、ロープアクセスはアンカー(支点)の数や配置によって同時に作業できる人数・範囲に制約が出やすくなります。この場合、準備期間の短さで得たリードタイムが、実作業日数の違いによって打ち消されることも考えられます。
工法選定の基本的な考え方は、別記事「無足場工法とは?ロープアクセス・ゴンドラ・高所作業車の仕組みとメリット・デメリット」で整理しています。
季節による工期への影響も考えておきたい
無足場工法は天候の影響を受けやすいため、梅雨・台風シーズン(6〜9月頃)は作業中断による工期延長のリスクが相対的に高まります。逆に、乾燥した冬場は作業がしやすい一方、積雪地域では足場・無足場工法を問わず冬期の高所作業そのものが難しくなる傾向です。
複数の店舗・物件を管理している場合、1つの現場で天候により工期が延びると、次の現場の着工予定にも影響しかねません。複数物件をまとめて発注する際の工期調整については、別記事「複数店舗・物件の外壁・看板メンテナンス、まとめて発注すべき理由と注意点」も参考にしてください。
発注者が工期を見積もる際に確認したいポイント
- 足場の設置・解体にかかる日数と、実作業にかかる日数を分けて提示してもらう
- 高さ10m以上・60日以上設置する規模か(足場設置届の対象か)を確認する
- 届出が必要な場合、着工30日以上前に契約・準備を終える前提でスケジュールを組む
- 天候により工期が延びた場合の取り扱い(追加費用・完工日の調整方法)を確認する
- テナント・居住者への告知が必要な期間を、業者の工期案と合わせて確認する
特に、足場の設置届が必要になる規模の工事(高さ10m以上・60日以上設置)かどうかは、見積もり依頼の早い段階で確認しておきたい点です。届出が必要な規模だと分かれば、着工希望日から逆算して、最低30日以上前には業者への相談・発注判断を済ませておきましょう。テナントへの告知や、マンションの総会決議を伴う大規模修繕では、このスケジュール感をあらかじめ共有しておくと、後の日程調整がスムーズになります。見積もり依頼から契約・着工までの一般的な流れは、別記事「見積もり依頼から契約・着工まで、どんな流れで進む?」でも解説しています。
サービス別の工期の目安
サービスごとに、足場工法と無足場工法での工期の違いを整理します。いずれも業者・現場条件による幅が大きいため、目安として捉えてください。
外壁塗装は、戸建て規模で足場込み10日〜2週間程度、マンション・ビル規模では足場の設置期間を含めて3週間〜2か月程度という目安が示されています。ロープアクセスであれば、部分補修・局所塗装の場合、作業自体は数日〜10日程度で完了するケースが多いとされています。詳しい相場は「外壁塗装、次はいつ必要?耐用年数の目安」も参考にしてください。
外壁調査(打診調査)は、ロープアクセスの場合、建物規模により現地調査自体が1〜3日程度で終わるという目安が示されています。全面打診等調査の対象になる建物でも、足場を組む場合に比べて準備期間が不要な分、調査全体のリードタイムは短くなる傾向です。建築基準法12条点検(「建築基準法12条点検とは?」)のように報告期限が法律で決まっている調査では、この準備期間の短さが期限内対応のしやすさに直結します。ドローン・赤外線調査との工期・費用の比較は「外壁調査、ドローンでも大丈夫?」で解説しています。
窓ガラス清掃は、単発の清掃であれば中層ビルで1日、高層ビルでも数日程度で完了することが多く、足場を組む必要がある現場と比べて、着手までのリードタイムの差が最も大きく出やすいサービスです。月1〜2回の定期契約になると、1回あたりの訪問時間は建物規模にもよりますが、数時間から1日程度に収まることが多くなります。
看板作業・鳥害対策は、作業範囲がもともと限定的なことが多く、無足場工法であれば1日で完了する案件も少なくありません。これらのサービスで足場を組むケースは、建物自体の大規模修繕と同時に行う場合が中心です。鳥害対策については、鳩の繁殖期に入る前の冬〜早春(3月頃まで)に対策を終えておくことが望ましいとされており、工期の短さは「繁殖期前のタイムリミットに間に合わせやすい」という形でもメリットになります。
テナントビル・商業施設では、工期の長さがそのまま営業への影響期間になります。足場を組む工事の場合、設置期間中は建物の外観・採光・通風が変化し、入口付近の見た目が変わることで客足への影響を心配する声も聞かれます。無足場工法であれば、こうした外観上の変化が生じる期間自体を短く抑えられるため、テナントへの説明も「何日間、作業員が建物外壁で作業します」という形でシンプルに伝えやすくなります。
無足場工法の業者は、予約が取りにくい時期があることも知っておく
無足場工法を専門とする業者は、足場工法の業者に比べて数が限られています。繁忙期(大規模修繕のピークとなる時期や、天候の良い時期)には、見積もり依頼から着工までの間に、業者のスケジュール調整による待ち時間が発生しやすくなります。
「工期が短い工法だから、直前に発注しても間に合う」と考えるのではなく、無足場工法であっても、見積もり依頼・現地調査・契約という一連の流れには一定の時間がかかります。特に法定点検の期限が決まっている外壁調査や、テナントの退去・改装のスケジュールに合わせたい工事では、早めに相談を始めておくことが、結果的に希望する時期での着工につながります。
まとめ
工期の差を生む最大の要因は、足場の組立・解体という準備期間の有無です。足場は建物の規模に応じて組立・解体に数日〜1か月程度かかり、高さ10m以上かつ60日以上設置する規模の工事では、着工30日前までの届出も必要になります。
無足場工法はこの準備期間がまるごと不要になるため、部分補修・局所的な作業では工期を大きく短縮できます。ただし天候への弱さや、作業範囲が広い場合の制約もあるため、どちらが早く終わるかは現場条件によって変わります。
見積もりを依頼する際は、金額だけでなく「設置・解体にかかる日数」と「実作業にかかる日数」を分けて確認すると、業者間の工期を正確に比較しやすくなります。無足場工法を専門とする業者は数が限られているため、希望する着工時期がある場合は、工期の短さに油断せず早めに相談を始めることが、結果的に希望のタイミングでの着工につながります。
よくある質問
Q. 足場の設置届とは何ですか?
A. 労働安全衛生法88条に基づき、高さ10m以上(つり足場・張出し足場を除く)かつ組立から解体まで60日以上設置する足場について、工事開始30日前までに労働基準監督署へ届け出る制度です。無足場工法はこの制度の対象外です。
Q. 無足場工法の方が必ず早く終わりますか?
A. 多くの場合は足場工法より短期間で済みますが、天候による中断や、作業範囲が広い場合の制約により、工期短縮の効果が小さくなるケースも見られます。
Q. マンションの大規模修繕では、どのくらい前から発注の準備をすべきですか?
A. 足場の設置届が必要な規模であれば、着工30日以上前には業者との契約・届出準備を終えておいてください。管理組合の総会決議等のプロセスも考慮すると、さらに前の段階から準備を始めることをおすすめします。
Q. 見積もりで工期を比較する際、何を確認すればよいですか?
A. 「足場の設置・解体にかかる日数」と「実際の作業にかかる日数」を分けて提示してもらうと、業者間の違いが分かりやすくなります。天候による延長の可能性についても、あらかじめ確認しておくと安心です。
Q. 足場の組立・解体には何人くらいの作業員が必要ですか?
A. 戸建て規模であれば2〜3名が目安です。マンション・ビル規模になると、規模に応じて作業員数も増え、組立・解体にかかる日数も伸びる傾向があります。
Q. 工期が遅れた場合、違約金や保証はありますか?
A. 業者・契約内容によって異なります。天候による遅延は不可抗力として扱われることが一般的ですが、契約前に遅延時の取り扱いについて確認しておくと、後のトラブルを避けやすくなります。
Q. 工期を短くするために、発注者側でできることはありますか?
A. 現地調査の日程に迅速に対応する、管理組合の総会決議や社内決裁を前倒しで進める、建物の図面等の資料を早めに準備しておく、といった点が、見積もり依頼から着工までのリードタイム短縮につながります。業者の作業自体を早めることはできませんが、着工前の手続きを滞らせないことが、結果的に全体のスケジュールを前に進めます。