高層ビルの窓ガラス清掃で、作業員が箱のような台に乗って壁面を上下する光景を見たことはありませんか。あれが「ゴンドラ」と呼ばれる工法です。
ロープアクセスと同じ「無足場工法」の仲間ですが、仕組みも法規制も異なります。この記事では、厚生労働省の一次資料をもとに、ゴンドラ工法の基本的な仕組みから、常設型と可搬型の違い、法律で定められた検査・教育の制度まで整理します。
ゴンドラの仕組み
屋上に吊元(アンカー)を設置し、ワイヤーロープを吊り下げて、作業床(ゴンドラ本体)に取り付けた巻上機で電動昇降させる工法です。
ロープアクセスが作業員の身体をロープで直接保持するのに対し、ゴンドラは作業員が「乗り込んで」作業する台そのものが上下する、という違いがあります。安定した姿勢で作業できるため、長時間の作業や複数人での同時作業に向いています。
常設型と可搬型、2つのタイプがある
可搬型:作業期間中のみ設置し、終了後は他の現場へ移動
常設型は、その建物専用の設備としてビルの屋上等に据え付けられており、日常的な窓ガラス清掃など定期メンテナンス用途で使われます。壁面がフラットで凹凸が少ない高層建築物との相性がよく、大規模オフィスビルなどではこのタイプが主流です。
一方、可搬型は工事のたびに現場へ運び込み、作業終了後は撤去して別の現場へ移動させるタイプです。建物側に常設のゴンドラ設備がない場合や、一時的な点検・補修工事で利用されます。
同じ「ゴンドラ」という名前でも、常設型は建物と一体化した恒久的な設備であるのに対し、可搬型はその都度組み立てて使う仮設に近い性格を持っています。どちらのタイプであっても、これから説明する法律上の検査・教育の義務は共通して適用されます。
コストの構造にも違いがあります。常設型は、設置時にまとまった初期投資が必要になる一方、一度設置してしまえば、日常的な清掃・点検のたびに新たな設備を持ち込む必要がありません。長期的に頻繁な清掃・点検を行う大規模ビルであれば、常設型のほうが総コストを抑えられる可能性があります。一方、可搬型は初期投資こそ不要ですが、依頼のたびに運搬・組立・解体の費用が発生するため、単発の点検・補修工事や、清掃頻度がそれほど高くない建物では、可搬型のほうが合理的な選択になることが多いといえます。
法律で定められた検査・届出の仕組み
ゴンドラは、厚生労働省の「ゴンドラ安全規則」(1972年制定)という専用の省令によって、製造段階から使用中まで細かく規制されています。
- 製造検査・使用検査:新たに製造したゴンドラ、あるいは1年以上未設置だったゴンドラなどは、登録設計審査等機関による検査に合格し「ゴンドラ検査証」の交付を受ける必要があります。検査証の有効期間は1年です。
- 設置届:事業者はゴンドラを設置しようとするとき、組立図や設置箇所の状況、固定方法などを記載した書面を添えて、所轄労働基準監督署長に設置届を提出しなければなりません。
- 定期自主検査:1か月以内ごとに1回、巻過防止装置などの安全装置、ブレーキ、突りょう・アーム・作業床の損傷の有無などを検査し、その結果を3年間保存する義務があります。
- 作業開始前点検:その日の作業を始める前に、ワイヤーロープや緊結金具の損傷・腐食、手すりの脱落の有無などを点検する義務があります。
建物に常設されているゴンドラであっても、「設置してあるから安全」というわけではなく、こうした定期的な検査・点検が法律で義務づけられているという点は、発注者としても知っておきたいポイントです。
さらに、ゴンドラの作業床やアーム、ブレーキ、ワイヤーロープなど主要な部分を変更する場合には、検査証と変更部分の図面を添えて「変更届」を提出し、所轄労働基準監督署長による「変更検査」を受ける必要があります。
また、検査証の有効期間を更新するための「性能検査」、使用を休止する場合の休止報告、廃止した場合の検査証返還など、ゴンドラのライフサイクル全体にわたって細かく手続きが定められています。
長年使われている常設ゴンドラでも、こうした更新手続きがきちんと行われているかどうかは、建物の安全管理体制を見極める一つの目安になります。
特に、マンションやビルに設置された常設ゴンドラは、清掃業者が交代しても設備自体はそのまま使い続けられることが多く、検査記録の引き継ぎが曖昧になりやすい部分でもあります。管理組合やビルオーナーとして、清掃業者を切り替えるタイミングでは、既存のゴンドラ検査証や過去の定期自主検査の記録が適切に保管されているかを、あらためて確認しておくとよいでしょう。
ゴンドラにも専用の特別教育がある
科目:①ゴンドラに関する知識 ②操作に必要な電気の知識 ③関係法令 ④操作及び点検 ⑤操作のための合図
ロープアクセスには「ロープ高所作業特別教育」、フルハーネス型器具を使う作業には「フルハーネス型墜落制止用器具特別教育」があるように、ゴンドラの操作業務にも専用の法定特別教育が定められています(ゴンドラ安全規則第12条)。
事業者は、ゴンドラの操作業務に労働者をつかせるとき、この特別教育を受講させなければなりません。
科目は、
①ゴンドラに関する知識
②操作に必要な電気に関する知識
③関係法令
④ゴンドラの操作及び点検
⑤操作のための合図
の5つで構成されています。ゴンドラ安全規則そのものは1972年(昭和47年)に制定されており、ロープ高所作業特別教育(2016年)やフルハーネス型墜落制止用器具特別教育(2019年)、高所作業車の運転資格(1990年)と比べても、最も歴史が古い制度です(ロープ高所作業特別教育とフルハーネス特別教育の違いとは?対象作業・受講内容をわかりやすく解説もあわせてご覧ください)。
労働安全衛生規則の条文を確認すると、ゴンドラの操作業務は第36条第20号に規定されています。同条には、ロープ高所作業(第40号)やフルハーネス型器具の使用(第41号)も並んで規定されており、高所作業に関わる複数の法定特別教育が、一つの条文の中に体系的にまとめられていることが分かります。
命綱の使用義務、ロープアクセスと共通する安全思想
ゴンドラの作業床で作業する労働者には、要求性能墜落制止用器具などの命綱を使用させることが義務づけられています。
特に注目したいのが、「つり下げのためのワイヤーロープが1本であるゴンドラの場合、命綱は当該ゴンドラ以外のものに取り付けなければならない」という規定です。
つまり、ゴンドラを吊っているワイヤーロープとは別に、独立した命綱の取り付け先を用意しなければならないということです。もし作業中にワイヤーロープ側で何らかのトラブルが起きたとしても、それとは無関係な別系統の命綱があれば、作業員の安全を確保できる、という考え方に基づいています。
これは、ロープアクセスにおける「メインロープとライフラインの2本を別々に用意する」という考え方と共通する、二重の安全対策の思想だといえます(IRATA・JIRAAといった民間資格の解説はIRATA・JIRAAとは?ロープアクセス業者の資格・認定を発注者向けにわかりやすく解説もご覧ください)。工法は違っても、「一つの系統に頼らない」という高所作業の安全思想は、業界全体で共通していることがうかがえます。
このほか、悪天候(強風・大雨・大雪等)による作業禁止、積載荷重を超える使用の禁止、作業床の上でさらに脚立を使うことの禁止、操作を行う者が操作位置を離れることの禁止など、細かな就業ルールも定められています。
ゴンドラを使用して作業する箇所の真下に関係者以外が立ち入らないよう禁止する措置や、必要な照度を保つことも義務づけられており、作業員本人だけでなく、周囲にいる人の安全にも配慮した制度設計になっています。
また、ゴンドラの操作を行う者は、作業中はその場を離れてはならないという規定もあります。操作者が持ち場を離れることで、予期しないタイミングでゴンドラが動いてしまうといった事故を防ぐための措置です。操作の合図についても、あらかじめ一定のルールを決め、合図を行う担当者を指名しておくことが義務づけられています(操作者が単独で作業する場合を除く)。こうした細かなルールの積み重ねが、ゴンドラ作業全体の安全性を支えています。
ロープアクセスとどう使い分けるか
ゴンドラとロープアクセスは、どちらも足場を組まない「無足場工法」の仲間ですが、得意な場面は異なります。ゴンドラは、常設設備があれば効率よく運用でき、安定した作業床で長時間の定期清掃に向いています。
一方、ロープアクセスは、複雑な形状の建物やピンポイントの補修に強みがあります(工法全体の比較はロープアクセス・ゴンドラ・高所作業車・足場、高所作業4工法はどう選ぶ?向いている建物・コスト・工期を比較で解説しています)。
窓ガラス清掃を依頼する際、建物に常設ゴンドラがあるかどうかは、業者選びの重要な判断材料になります。
常設設備があるのにロープアクセスで対応してもらう場合と、常設設備がなく可搬型ゴンドラを持ち込んでもらう場合とでは、費用感が変わってくることもあるため、見積もり時に確認してみるとよいでしょう。
また、業者によって「ゴンドラは対応できるがロープアクセスはできない」「その逆」というケースもあります。複数の工法に対応できる業者であれば、建物の状況に応じて柔軟に提案してもらえる可能性が高くなるため、対応できる工法の幅も、業者選びの際に確認しておきたいポイントの一つです。
なお、高所作業車という第三の選択肢もあります。車両を止められる敷地があれば、ゴンドラやロープアクセスとは異なるアプローチで高所にアクセスできるため、建物の立地条件によっては比較検討の対象になり得ます。4工法全体の使い分けについては、記事冒頭でも触れた比較記事にまとめていますので、あわせてご覧ください。
ゴンドラを依頼する前のチェックポイント
- 建物に常設ゴンドラがあるか、それとも可搬型を持ち込む必要があるか
- ゴンドラ検査証・定期自主検査の記録が最新か
- 作業員がゴンドラ操作の特別教育を受講しているか
- 命綱の取り付け先がゴンドラ本体以外に確保されているか
- 対応できる工法(ゴンドラ・ロープアクセス等)の幅
よくある質問
Q. ゴンドラとロープアクセス、どちらが安全ですか。
A. どちらも法律で安全対策が義務づけられた工法であり、一概にどちらが安全とは言えません。ゴンドラは安定した作業床がある分、姿勢は安定しますが、設置位置に制約があります。ロープアクセスは複雑な形状に対応できる柔軟性がありますが、天候の影響を受けやすい面があります。それぞれの工法に応じた法定の資格・教育を受けた作業員が対応しているかを確認することが重要です。
Q. 自分のビルに常設ゴンドラがあるかどうかは、どう確認すればよいですか。
A. 建物の管理会社や、過去の清掃業者に確認するのが確実です。屋上に巻上機やレール等の設備がある場合は、常設ゴンドラが設置されている可能性があります。
Q. ゴンドラの点検記録は、発注者側でも確認できますか。
A. 定期自主検査の結果は事業者(通常は建物の管理者や施工会社)が3年間保存する義務があります。管理組合やビルオーナーとして、点検記録の保管状況を確認しておくことは、万が一のトラブル時の備えにもなります。
Q. 可搬型ゴンドラを使う場合、追加の費用はかかりますか。
A. 常設ゴンドラがない建物で可搬型を持ち込む場合、運搬・設置・撤去にかかる費用が別途発生することが一般的です。見積もりの内訳に、こうした設置関連の費用が含まれているか確認しておくとよいでしょう。
Q. ゴンドラの操作には、ロープ高所作業特別教育も必要ですか。
A. ゴンドラの操作業務は、ロープ高所作業特別教育ではなく、ゴンドラ安全規則第12条に基づく専用の特別教育が対象です。両者は対象業務も条文の根拠も異なるため、業者に確認する際は「ゴンドラ操作の特別教育を受講しているか」という聞き方をするのが確実です。
Q. ゴンドラの検査・点検を怠っていた業者に依頼してしまった場合、どうなりますか。
A. 定期自主検査や作業開始前点検は、ゴンドラ安全規則で事業者に義務づけられているものです。これらを怠っていたことが原因で事故が起きた場合、施工業者側の安全配慮義務違反が問われる可能性があります。発注者としては、契約前に検査記録の有無を確認しておくことで、こうしたリスクの高い業者を避けやすくなります。
Q. 常設ゴンドラがある建物を、これから清掃業者に依頼する場合の注意点はありますか。
A. 既存の常設ゴンドラを使用してもらう場合でも、その業者がゴンドラ操作の特別教育を受けた作業員を配置できるか、直近の定期自主検査がいつ行われたかを確認しておくことをおすすめします。設備自体は建物に付属していても、それを安全に操作できるかどうかは、依頼する業者次第だからです。
まとめ
ゴンドラは、常設型と可搬型という2つのタイプがあり、それぞれ「ゴンドラ安全規則」という専用の省令で、検査・届出・特別教育・命綱の使用など細かく規制されています。
ロープアクセスとは異なる法規制・特別教育が定められているため、依頼する工法に応じて、業者がどの資格・教育に対応しているかを確認しながら、業者選びを進めてみてください。