高所作業の見積書、「一式」のままで大丈夫?2025年12月施行の改正建設業法で変わった見積もりの見方

高所作業の見積書、「一式」のままで大丈夫?2025年12月施行の改正建設業法で変わった見積もりの見方
オヤズナ編集部代表
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高所ロープ専門の窓ガラス清掃、外壁塗装会社を専門に調査・比較する業界特化型プラットフォーム「オヤズナ」の運営者です。
高所ロープ会社での勤務経験を有し、現場視点と業界理解をもとに情報発信を行っています。また、労働安全衛生法に基づく高所作業関連講習を修了しており、安全管理および高所作業に関する基礎知識を有しています。
オヤズナでは、各社の公式サイト・公開情報・施工実績情報をもとに、「安全性(保険加入・資格情報)」「実績(創業年数・施工事例)」「対応力(エリア・階数・緊急対応)」などの独自基準でデータを整理・比較。これらのオリジナルデータベースをもとに、公平性と透明性を重視した記事制作および情報監修を行っています。

外壁補修やシーリング打ち替えの見積書を受け取って、金額欄に「工事一式」とだけ書かれていた経験はありませんか。

総額は書いてあっても、その中に作業員の人件費がいくら入っているのか、墜落防止の設備や監視要員にいくら割いているのかが見えない。比較しようにも、他社の見積書とは項目の立て方が違うので、どちらが高いのかさえ判断できない。そんな状態で社内稟議に回していないでしょうか。

2025年12月12日に全面施行された改正建設業法は、まさにこの「見積書の中身」に踏み込んだ制度です。国土交通省は、材料費・労務費・法定福利費の事業主負担分・安全衛生経費・建退共掛金の5つを内訳として明示した見積書を重視する方針を打ち出しました。しかも、見積りを依頼する側(発注者)にも、守るべきルールが課されています。

この記事では、国土交通省の公表資料をもとに、改正で見積書の何が変わったのか、ロープアクセスや高所作業の見積書をどう読めばよいのか、発注者として何を守り、何を依頼すればよいのかを整理します。

 

2025年12月12日に施行された改正は何を変えたのか

改正の元になったのは、2024年6月14日に公布された「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第49号)です。一部は2024年に先行して施行され、残りの部分が2025年12月12日に施行されて、全面施行となりました。

見積書と契約に関わる部分は、大きく3点に整理できます。

1点目は、見積書の内訳明示です。建設業者は、材料費・労務費などを内訳として記載した見積書(国土交通省の資料では「材料費等記載見積書」と呼ばれます)を作成する努力義務を負います。発注者から請求があった場合は、契約が成立するまでにこの見積書を交付しなければなりません。

2点目は、著しく低い労務費等による見積りと、見積り変更依頼の禁止です。受注者が通常必要と認められる額を著しく下回る労務費等で見積もることも、発注者が労務費等が著しく低くなるような見積り変更を依頼することも、禁じられました。

3点目は、受注者側への規制の追加です。従来は発注者だけが対象だった「原価に満たない金額での契約」と「著しく短い工期での契約」の禁止が、建設業者にも課されました。

あわせて、2025年12月2日に中央建設業審議会が「労務費に関する基準」を勧告しています。個別の見積りで確保されるべき労務費は現場ごとに異なるため、この基準は、適正な労務費の相場観を示す物差しとして位置づけられています。

ここで押さえておきたいのは、この改正が「業者を縛るだけの法律」ではないという点です。見積りを依頼する発注者が、価格交渉のなかで労務費を削る方向に圧力をかけることも、制度上の問題として扱われるようになりました。

見積書に明示される5つの費目と、高所作業での意味

国土交通省の資料では、内訳として明示すべき費目が次の5つに整理されています。

材料費、労務費、法定福利費の事業主負担分、安全衛生経費、そして建設業退職金共済制度(建退共)の掛金です。ロープアクセスや高所作業の見積書で、それぞれが何に当たるのかを見ていきます。

材料費

シーリング材、補修用モルタル、塗料、タイルの注入材といった、工事に使う資材の費用です。無足場工法では足場材が不要になるため、足場を組む見積書と比べると、材料費の構成が変わります。

労務費

作業員の賃金の原資です。ロープアクセスは人の技能で成り立つ工法ですから、見積総額に占める労務費の割合は高くなります。国土交通省は、適正な労務費を「公共工事設計労務単価×歩掛×数量」などの考え方で示しており、労務単価を設計労務単価より低く設定したり、実態より効率のよい歩掛を設定したりした見積りは、「著しく低い労務費での見積り」として法違反となり得るとしています。

法定福利費の事業主負担分

健康保険・厚生年金保険・雇用保険などの、事業主が負担する分です。見積書にこの欄がなく、総額だけが安い場合は、保険料の負担が見積りに織り込まれているかを確認する価値があります。

安全衛生経費

労働災害を防ぐための対策費用です。墜落制止用器具、ロープ、保護具、作業を監視する要員の配置、立入禁止措置の設置などが該当します。国土交通省の資料では、受注者の積算方法は「個別に積み上げる方式」「施工実績に基づく経費率方式」「その組み合わせ」と整理されています。

高所作業の見積書では、この欄が実質的な安全体制の厚みを映します。ロープ高所作業でメインロープとライフラインの2本を使う義務については、別記事「メインロープとライフライン、なぜ2本必要?」で詳しく解説しています。

建退共掛金

建設業退職金共済制度の掛金です。国土交通省は、従来から「通常必要と認められる原価」として確保が求められてきた経費だと整理し、今回の改正で内訳明示の対象に加えています。

発注担当者へ
見積書を受け取ったら、金額の前に次の点を確認してください。
  • 材料費・労務費・法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金が、総額と別に分かれているか
  • 安全衛生経費に、墜落防止設備や監視要員など高所作業特有の費用が含まれているか
  • 工期が「通常必要と認められる期間」に比べて極端に短くなっていないか
  • 複数社の見積書で、工事範囲と数量の前提が揃っているか
  • 見積書と打合せの記録を、自社でも保存しているか

発注者に求められるようになったこと

見積書の改正というと、受注者側の話に聞こえます。しかし国土交通省のリーフレットには、「発注に当たっては」として、発注者への依頼事項が明記されています。要点は次の通りです。

見積期間を十分に設ける

建設業法施行令には、見積りに必要な最低限の期間が定められています。工事1件の予定価格が500万円未満なら1日以上、500万円以上5,000万円未満なら10日以上、5,000万円以上なら15日以上です。

国土交通省の運用方針は、この最低限の期間にかかわらず、契約の内容となるべき重要な事項を事前に提示し、見積落としが起きないよう検討する期間を確保することを、発注者に求めています。「来週までに金額を出してほしい」という依頼は、この考え方に照らすと、見直しの余地があります。

提出された見積書を考慮・尊重する

受注者から内訳つきの見積書が提出されたら、その内容を考慮することが求められます。見積書の様式を発注者が指定すること自体は差し支えありません。ただし、受注者が内訳を明示した見積書を提出できなくなる様式を使うこと、受注者が別様式で出した見積書を無視して原価割れの契約を強いることは禁止されています。

労務費等が著しく低くなる見積り変更依頼をしない

これが今回の改正で最も重い部分です。「予算に合わせてこの金額まで下げてほしい」と、内訳を示した見積書の労務費等を著しく下回る水準への変更を依頼することは、禁止されました。違反して契約を締結した場合は、勧告・公表の対象となる可能性があります。

国土交通省は、個人など建設業者に当たらない発注者であっても、労務費等を必要額より著しく下回るよう見積り変更を依頼した場合には、許可行政庁が勧告・公表を行うことがあり得るとしています。

禁止の対象は「著しく低くなるような」見積り変更依頼です。工事範囲の絞り込み、工法の変更、着工時期の調整といった条件面の相談まで禁じられたわけではありません。値段だけを押し下げるのではなく、条件を動かして折り合いをつける交渉に切り替えることが、これからの実務になります。

見積書を保存しておく

受注者には、見積書を契約の目的物の引渡しから10年間保存する義務があります。発注者には保存義務はありませんが、運用方針は、価格交渉の事実関係を説明できるよう、見積書と打合せ記録を保存しておくことを推奨しています。

「一式」だけの見積書はどう扱えばよいか

では、冒頭の「工事一式」の見積書は、すぐに違法になるのでしょうか。

国土交通省の資料から読み取れるのは、内訳明示が「努力義務」であること、そして、明示を求められるのは労務費・材料費など5つの費目であって、すべての項目の明細ではないということです。「一式」と書かれていること自体が違反と断じられているわけではありません。

とはいえ、内訳のない見積書では、適正な労務費が確保されているかを発注者も業者も確かめられません。見積書を受け取った段階で、次のように依頼すれば足ります。

「労務費・材料費・安全衛生経費などの内訳を分けた形でお出しいただけますか」。

国土交通省の運用方針は、発注者が労務費について労務単価と歩掛の明示を求めることは「差し支えなく、適正な労務費を図る観点から推奨される」としています。ただし、歩掛の開示は一律に求められるものではなく、受注者が秘匿性の高い情報として精度を調整することも許容されています。内訳の依頼は、相手の事情に配慮しながら、無理のない範囲で伝えることが大切です。

見積書の様式を揃えて依頼しておけば、複数社の比較もしやすくなります。相見積もりの進め方は「外壁塗装の相見積もり、何社から取るべき?断り方まで解説」にまとめています。

この改正が及ぶ工事と、及ばない工事

最後に、適用範囲について正確に整理しておきます。

建設業法が対象とするのは「建設工事」です。外壁の補修、塗装、シーリング、防水、タイル張替えといった工事は建設工事に当たり、今回の改正の対象になります。一方、窓ガラス清掃や外壁の洗浄といった清掃業務は、建設業の許可区分(29業種)に含まれる工事ではありません。清掃のみの発注に、この改正が直接及ぶわけではないことに注意してください。

もう1点、受注者が建設業許可を持たない場合です。請負金額が500万円未満などの「軽微な建設工事」だけを請け負う事業者は、許可なしで営業できます。国土交通省の運用方針は、こうした許可不要の事業者は、見積書作成の努力義務や著しく低い労務費による見積りの禁止などの新規制を直接受けるわけではないと整理しています。そのうえで、そうした小規模事業者こそ適正な労務費を確保するために、許可業者と同様の見積りに努めることが期待されると述べています。

許可の要否の考え方は、「ロープアクセス業者に建設業許可は必要?」で詳しく解説しています。

つまり、発注者としては、業者が許可業者かどうかにかかわらず、「内訳の出せる見積書を作る習慣のある会社か」を確かめることが、実務上の物差しになります。

見積もりを依頼する前に、整理しておきたいこと

内訳つきの見積書を比較しやすい形で受け取るには、依頼の時点で条件を揃えておくことが近道です。

建物の所在地・階数・構造、作業したい箇所と範囲(写真があれば添える)、希望する時期、屋上への立入や周辺道路の状況といった情報を、複数社に同じ内容で伝えます。条件がばらばらだと、見積書の差が工事範囲の違いなのか単価の違いなのか、判別できなくなります。

見積書を取得したら、金額の大小だけでなく、5つの費目が内訳に分かれているか、安全衛生経費の中身は何か、工期が通常必要と認められる期間になっているかを順に確認します。工期の見方は「ビルの外壁塗装、工期はどのくらい?」も参考になります。

oyazunaでは、高所ロープ作業に対応できる施工会社を掲載しており、無料の見積もり依頼フォームから、建物の情報と作業内容を送るだけで複数社への相談が可能です。依頼の際に「労務費・材料費・安全衛生経費を分けた内訳でお願いします」と一言添えておけば、比較しやすい見積書が揃いやすくなります。

よくある質問

Q. 内訳を分けた見積書を、業者に出してもらう義務はありますか。
A. 見積書の作成そのものは努力義務です。ただし、発注者から請求があった場合は、契約成立までに見積書を交付しなければならないとされています。内訳を明示した形での提出を依頼することは、国土交通省の運用方針に照らしても適切な依頼です。

Q. 予算が決まっている場合、金額の相談はできませんか。
A. できます。禁止されているのは、労務費等を著しく下回る水準にするよう変更を依頼することです。予算に合わせて工事範囲を絞る、工法を変える、時期を調整するといった条件面の相談は、問題になりません。

Q. 小規模な補修工事でも、内訳つきの見積書が必要ですか。
A. 数万円規模の補修でも、材料費と作業費が分かれていれば、比較や確認が容易になります。許可不要の事業者には新規制が直接及びませんが、内訳を出せるかどうかは、会社選びの判断材料になります。

Q. 窓ガラス清掃の見積書にも、この改正は関係しますか。
A. 清掃業務は建設工事に当たらないため、法改正は直接及びません。ただし、人件費・機材費・諸経費を分けて確認するという見方は、清掃の見積書でも有効です。

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