鉄骨造のビルや工場、物流倉庫の外壁に、ひび割れや欠け、目地のシーリングの割れを見つけた。外壁がALCパネルだと聞いているが、補修を頼むときに、何を基準に業者を選べばよいのか分からない。そう感じてはいませんか。
ALCパネルは、普通のコンクリートとも、窯業系サイディングとも性質が違います。水を吸いやすく、表面の塗膜とパネル間のシーリングが傷むと、雨水が内部に入って耐久性を損ねます。補修の発注では「ひび割れを埋める」だけでなく、「なぜ水が入ったのか」まで確認しなければ、同じ場所を何度も直すことになります。
この記事では、ALC協会の公式資料(よくある質問、「ALCパネルの仕上げおよび防水」第9版)をもとに、発注する側が知っておきたい性質と、補修・塗装・シーリングの関係、見積もり前の確認点を整理します。費用の金額は、一次資料で条件を示した数字を確認できなかったため載せていません。
この記事でわかること
- ALCパネルの外壁が「水」に弱い理由と、傷みの出方
- ひび割れ・剥離・爆裂が起きる原因(協会資料で確認できる範囲)
- 塗装とシーリングを一体で考える理由
- 補修を発注する前に確認したい項目と、避けたい施工
ALCパネルとは。ビル・工場の外壁に広く使われる建材
ALCは、高温高圧蒸気養生された軽量気泡コンクリート(Autoclaved Lightweight aerated Concrete)の頭文字です。板状に成型したものを「ALCパネル」と呼びます。ALC協会によれば、日本での生産開始は1963年です。
用途は幅広く、ALC協会は高層オフィスビル、中低層ビル、高層マンション、大型ショッピングセンター、ロードサイド店舗、工場、物流倉庫などを挙げています。厚形パネルは、主に鉄骨造建築物の外壁、間仕切壁、屋根、床に使われます。国内のメーカーは、旭化成建材(ヘーベル)、クリオン(クリオン)、ケイミューシポレックス(シポレックス)の3社です。
ALCパネルはJIS A 5416の製品で、発売当初からアスベストは使用されていないとALC協会は説明しています。「古い建物だからアスベストが心配」という場合も、パネル自体はこの点で区別して考えられます。ただし、目地のシーリング材や塗材など、他の部材は別です。シーリング材の材種ごとの確認は、外壁シーリングの打ち替えと増し打ちで整理しています。
ALCの外壁は「水」と「仕上げ材の防水性能」で決まる
ALC協会のQ&Aは、ALCについて、優れた特性(軽量、耐火、断熱)を持つ反面、水を吸いやすい性質もあると説明しています。外部に面する場所には、防水性の高い仕上げが必要とされています。
耐用年数についての回答も、条件付きです。ALCパネルの耐用年数は、使用条件、仕上げ材(吹付、シーリング)のグレード、適切なメンテナンスの有無で異なるとされ、適切な使用条件のもとで定期的にメンテナンスを施した場合は、50年を超える長期使用も可能と書かれています。裏返せば、仕上げ材とシーリングを放置すれば、パネルの寿命も縮むという構造です。
協会資料「ALCパネルの仕上げおよび防水」は、この点をさらに明確に述べています。仕上げ材の防水性能が低下するとALCパネル内に雨水が侵入し、パネルの耐久性に弊害をもたらすことがある。そのため、パネルの耐久性は外壁仕上げ材の性能に大きく左右される、という内容です。
発注前の視点
ALC外壁の補修は、パネルそのものを直す工事ではなく、「水を入れない状態に戻す工事」と捉えると、見積もりの項目が読みやすくなります。塗膜、目地のシーリング、パネルの欠損部の3点を、セットで確認してください。
ひび割れ・剥離・爆裂は、なぜ起きるのか
同資料は、仕上げ材の劣化を、汚れ、亀裂、剥離、変形に大きく分けています。ALC外壁で発注者が目にするのは、主に次の3つです。
仕上げ材(塗膜)の劣化から起きるもの
汚れ、キズ、亀裂は、まず美観の悪化を招きます。それだけでなく、同資料は、これらがパネルの劣化にまで及ぶと建物の耐用年数を大きく縮め、不経済になると述べています。塗膜の傷みが外観の問題にとどまるうちに手を入れるのが、補修の基本的な考え方です。
海塩粒子による補強鉄筋の腐食
ALCパネルは、補強鉄筋入りのパネルとして使われます。同資料によると、鉄筋を取り囲むALCには防錆能力がなく、鉄筋の防錆処理が必要です。海岸地域では、飛来した海塩粒子が水分とともにパネルに侵入し、内部の補強鉄筋を腐食させ、パネル表面のひび割れ・剥離などを生じる恐れがある、と述べられています。このような場合は、塩化物を遮断するために、防水形複層塗材など遮へい性の高い仕上げ材を施す対策が必要とされています。
鉄筋の腐食が表面の傷みにつながる点は、普通のコンクリートの爆裂と共通する面があります。コンクリートの場合の仕組みは外壁の爆裂はなぜ起きる?中性化のメカニズムで解説しています。
高含水と炭酸ガスによる収縮亀裂
同資料は、パネルの含水率が高い状態で高濃度の二酸化炭素にさらされると、急激な炭酸化が起こり、顕著な収縮亀裂を生ずる恐れがあると述べています。例として、ビールや酒の醸造工場の発酵室が挙げられています。工場の用途によっては、外壁のひび割れの原因が、仕上げだけでなく、建物の使い方にある場合があります。
寒冷地では、雨水・融雪水・結露水などの水分が凍害の原因になることがあるとALC協会のQ&Aは説明しています。この場合、外部の仕上げには、壁体内の湿気を外に逃がす透湿性防水形塗材を採用するよう案内されています。
塗装とシーリングは、別々に頼まず一体で考える
ALC外壁の防水は、塗膜と目地のシーリングの両方で成り立っています。協会のQ&Aは、メンテナンスについて、仕上げ材や目地シーリング材の防水性能が低下すると漏水などの不具合を生じることがあるため、外装のメンテナンスは劣化や傷み具合に応じて定期的に実施することが必要だと回答しています。
仕上塗材の選び方
協会のQ&Aは、ALC外壁に適した仕上塗材として、防水性・弾性が高いものを挙げ、複層塗材E(アクリルタイル)が適しているとしています。一方、防水形複層塗材は、吹付け施工時の水分管理が難しく、ふくれを生じる恐れがあるため、寒冷地での採用には注意が必要と注記されています。
モルタル塗りなどの左官仕上げは、モルタルが収縮し、はく離・漏水する恐れがあるため避けるよう案内されています。石材や大型タイルを直接張ることもできません。ALCパネルの表面強度が普通コンクリートより小さいためです。
塗装の周期や、塗料ごとの耐用年数の考え方は外壁塗装、次はいつ必要かが参考になります。
パネル間のシーリング
パネル間のシーリング材について、ALC協会は、通常ポリウレタン系(JIS A 5758 耐久性区分8020)以上のシーリング材で、モジュラスの低いものを使用するとしています。目安として、50%引張応力が養生後0.2N/mm2以下、経年時でも0.3N/mm2以下となる材料が示されています。
見積書に「シーリング打ち替え」とだけあって、材料の種類が書かれていない場合は、ALC協会のこの目安に沿った材料かどうかを、業者に確認してください。打ち替えと増し打ちの違い、公共建築改修工事標準仕様書での扱いは外壁シーリングの記事にまとめています。
塗装とシーリングを別の会社に発注する場合は、水が入った原因が目地なのか塗膜なのかで、責任の範囲がどう分かれるのかを、書面で確認してください。
補修を発注する前に確認したい項目
協会資料の「ALCパネル外壁の補修・改修」の項は、下地および仕上げ材の補修・改修、劣化程度と補修の要否の判断について、次の2つの資料を参照するよう案内しています。
- 「ALCパネル外壁の補修・改修技術」(財団法人日本建築センター、1992年9月)
- 「ALC外壁補修工法指針(案)・同解説」(日本建築仕上学会、2000年4月)
つまり、ALCの補修については、学会が整理した指針が存在します。業者の提案が、こうした指針や、メーカー(旭化成建材、クリオン、ケイミューシポレックス)の仕様に基づいているかは、確認しておきたい点です。
業者に書面で回答してもらいたい項目を、表にまとめます。
| 確認項目 | 聞くこと |
|---|---|
| 診断 | ひび割れ・欠損・目地の傷みを、どの範囲で、どの方法で確認したか |
| 原因 | 水の浸入経路をどこと見ているか。仕上げ材か、目地か、取り合い部か |
| 仕上げ材 | 種類と、ALCに適した仕様か(防水性・弾性、透湿性の要否) |
| 下地補修 | 欠損部・ひび割れの補修方法と、補修範囲の数量 |
| シーリング | 材料の種類、除去の範囲、打ち替えか増し打ちか |
| 施工環境 | 海岸近く、寒冷地、工場の用途などの条件を考慮しているか |
| 足場・高所作業 | 足場か、高所作業車か、ロープアクセスか。その理由 |
| 保証 | 塗膜・シーリング・下地補修それぞれの範囲と期間 |
見積書の「一式」表記の見方は高所作業の見積書の内訳が参考になります。
診断の結果、補修の範囲や足場の要否に迷う場合は、無料で見積もりを依頼することもできます。
補修のついでにやってはいけないこと
ALC協会のQ&Aは、外壁に手を加える場面について、注意を促しています。
- 看板などの重量物をパネルに直接取り付けると、重量や強風時の風圧で取付部のパネルに局部的な損傷を生じる恐れがある。重量物は柱などの構造躯体に支持させ、パネルとの取合いにクリアランスを設けてシーリング材などで防水処理をする
- 溝堀り、孔あけ、切欠きなどの加工は、パネル強度の低下を招くため、原則として避ける。やむを得ない場合は、日本建築学会の「JASS 21 ALCパネル工事」を参照する
- パネルの補強材を切断するような加工は、極力避ける
補修の機会に看板の増設や設備の取付けを検討している場合は、取付けの方法を先に確認してください。看板の取付けの手続きは看板の取付費用と発注前の手続きで整理しています。
足場を組むか、無足場で施工するか
外壁の補修では、足場の有無が費用と工期を左右します。ALC外壁でも、傷みが特定の部位に限られる場合は、足場を組まずに高所作業車やロープアクセスで施工する選択肢があります。全面的な塗り替えと、部分補修では、向いている工法が変わります。
工法ごとの違いは高所作業4工法の比較、足場なしの外壁補修の考え方は足場が組めない場合の外壁補修で解説しています。ロープアクセスで現地調査を依頼したときの流れはロープアクセスの現地調査で確認されることが参考になります。
よくある質問
Q. ALC外壁のひび割れは、どう補修しますか。
A. ALC協会の資料は、補修・改修について、日本建築仕上学会の「ALC外壁補修工法指針(案)・同解説」などを参照するよう案内しています。まず、ひび割れの原因(仕上げ材の劣化、鉄筋の腐食、動きなど)を診断し、水の浸入を止める方法を業者に説明してもらってください。
Q. ALC外壁は何年持ちますか。
A. ALC協会は、使用条件、仕上げ材(吹付、シーリング)のグレード、適切なメンテナンスの有無で異なるとし、適切に定期メンテナンスを施した場合は50年を超える長期使用も可能としています。年数は、仕上げ材とシーリングの維持管理に左右されます。
Q. ALC外壁の塗装に向いている塗料は何ですか。
A. ALC協会は、防水性・弾性が高いものを選ぶとし、複層塗材E(アクリルタイル)が適しているとしています。防水形複層塗材は吹付けの水分管理が難しく、ふくれの恐れがあるため、寒冷地では注意が必要とされています。
Q. ALCとサイディングの違いは何ですか。
A. ALCは軽量気泡コンクリートのパネルで、鉄骨造のビルや工場に多く使われます。水を吸いやすく、仕上げ材とシーリングの防水性能が耐久性を左右する点が特徴です。点検や補修の前に、自分の建物の外壁材を、図面や施工記録で確認してください。
Q. ALC外壁にモルタルや石を張って仕上げ直せますか。
A. ALC協会は、モルタル塗りなどの左官仕上げは収縮してはく離・漏水する恐れがあるため避けること、石材や大型タイルは直接張れず、別途鋼製下地を設ける必要があることを案内しています。
まとめ
ALC外壁の補修は、パネルを直す工事というより、水を入れない状態を取り戻す工事です。診断で原因を特定し、塗膜、シーリング、下地補修を一体で計画しているかを、見積もりの段階で確認してください。
自社ビルや工場の外壁がALCか分からない場合も、まず現地で診断してもらうところから始められます。足場の要否を含めて相談したい場合は、oyazunaの無料見積もりフォームから、建物の状況をお伝えください。