墜落制止用器具(フルハーネス)の規格とは?2022年の経過措置終了・選び方・点検基準を解説

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高所ロープ専門の窓ガラス清掃、外壁塗装会社を専門に調査・比較する業界特化型プラットフォーム「オヤズナ」の運営者です。
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高所作業を行う業者の会社案内や見積書に「フルハーネス」という言葉が出てくることがあります。

実はこの器具、2019年の法改正で「安全帯」から「墜落制止用器具」へと呼び名が変わり、認められる形式や選び方にも細かいルールが定められました。

さらに近年、規格に適合しない粗悪な製品が市場に出回り、厚生労働省が回収を呼びかける事態も起きています。

この記事では、墜落制止用器具の規格がどう変わったのか、どんな基準で選ばれているのか、そして発注者として何を確認すればよいのかを、厚生労働省の公式資料をもとに整理します。

「安全帯」から「墜落制止用器具」への名称変更

2018年6月8日、労働安全衛生法施行令13条3項28号が改正され、それまで「安全帯(墜落による危険を防止するためのものに限る)」と呼ばれていた器具が「墜落制止用器具」という名称に改められました。2019年2月1日から施行されています。

単なる呼び方の変更ではありません。この改正で、どのタイプの器具が「墜落制止用器具」として法的に認められるかが、明確に絞り込まれました。

改正前(安全帯)改正後の扱い
胴ベルト型(一本つり)墜落制止用器具として認められる
胴ベルト型(U字つり)認められない(ワークポジショニング用器具として、フルハーネス型と併用する場合のみ使用可)
ハーネス型(一本つり)墜落制止用器具として認められる

改正前の安全帯には、腰の高さでロープの張力を使って体を保持する「胴ベルト型(U字つり)」も含まれていましたが、これには墜落そのものを制止する機能がないため、改正後は「墜落制止用器具」として認められなくなりました。

ただし、U字つり胴ベルトを柱上作業等で使う場合、フルハーネス型の墜落制止用器具と併用することは引き続き認められています。

改正の背景:胴ベルト型のリスク

なぜこのような改正が行われたのでしょうか。厚生労働省の資料によれば、建設業等の高所作業で使われてきた胴ベルト型安全帯は、墜落時に内臓の損傷や胸部の圧迫を招く危険性が指摘されており、国内でも胴ベルト型の使用に関わる労働災害が確認されていました。

一方、国際規格では、体を肩・腰部・腿などの複数箇所で保持するフルハーネス型が広く採用されています。

こうした背景から、厚生労働省は専門家検討会での議論を踏まえ、器具の名称・範囲・性能要件を見直すとともに、新たに特別教育を新設し、墜落による労働災害防止のための措置を強化しました。

ロープ高所作業特別教育とフルハーネス型墜落制止用器具特別教育という、名前の似た2つの法定資格が生まれた経緯については、以下の記事で解説しています。

ロープ高所作業特別教育とフルハーネス特別教育の違いとは?対象作業・受講内容をわかりやすく解説

フルハーネス型が原則、ただし高さによって胴ベルト型も可

2m以上の作業床がない箇所や、作業床の端・開口部等で囲い・手すり等の設置が困難な箇所では、墜落制止用器具はフルハーネス型を使用することが原則です。

ただし、フルハーネス型の着用者が墜落時に地面に到達するおそれのある場合(高さが6.75m以下)は、胴ベルト型(一本つり)を使用することも認められています。

高さ基準
2m以上作業床の設置が困難な箇所では墜落制止用器具の使用が原則(柱上作業等ではこの高さからフルハーネス型が推奨)
5m超一般的な建設作業ではこの高さからフルハーネス型の使用が推奨
6.75m超フルハーネス型の使用が原則(6.75m以下は胴ベルト型(一本つり)も可)

6.75mの内訳を分解すると、ショックアブソーバの自由落下距離の最大値(4m)、その伸びの最大値(1.75m)、そして安全余裕として加えられた1mの合計です。

厚生労働省のガイドラインでは、一般的な建設作業では5mを超える箇所、柱上作業等では2m以上の箇所でフルハーネス型の使用が推奨されるとされており、6.75mはあくまで「胴ベルト型が許容される上限」であって、それより低い高さでも積極的にフルハーネス型を選ぶことが望ましいとされています。

経過措置のスケジュール:2022年1月に完全移行

この規格改正には、事業者の負担を考慮した経過措置(猶予期間)が設けられていました。

時期できごと
2018年6月8日安衛令改正公布(「安全帯」→「墜落制止用器具」)
2019年1月25日墜落制止用器具の規格(平成31年厚労省告示第11号)公布
2019年2月1日改正法令・新規格・特別教育制度が施行
2019年2月1日〜旧規格品の製造終了、新規格品の製造・販売開始
〜2022年1月1日経過措置期間(旧規格の安全帯の使用・販売が可能)
2022年1月2日〜旧規格品の製造・販売・使用が全面禁止、新規格に完全移行

出典: 厚生労働省リーフレット「安全帯が『墜落制止用器具』に変わります!」

つまり、2019年2月1日の施行後も、それ以前から使われていた旧規格の安全帯(胴ベルト型・フルハーネス型)は、2022年1月1日までは引き続き使用できました。

しかし2022年1月2日以降は、旧規格に基づく安全帯の製造・販売・使用がすべて禁止されており、現在は新規格の墜落制止用器具のみが法令上認められています。

もし2022年1月以前に導入した器具をまだ使っている業者がいれば、それは規格違反の可能性があります。

「ガイドライン」という位置づけについて

ここまで紹介してきた選定基準・点検基準の多くは、「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」(平成30年6月22日付け基発0622第2号)という厚生労働省労働基準局長名の通達に定められています。労働安全衛生法施行令・労働安全衛生規則そのものではなく「ガイドライン」という形式である点には注意が必要です。

ただし、ガイドラインだからといって拘束力がないわけではありません。

ガイドラインの前文には「本ガイドラインはこれらの改正された安衛令等と相まって、墜落制止用器具の適切な使用による一層の安全対策の推進を図るため」に定められたものだと明記されており、労働基準監督署による指導・是正勧告の実務上の判断基準として機能します。

法令(安衛令・安衛則)が「フルハーネス型が原則」という大枠を定め、ガイドラインがその大枠を具体的な数値・手順にまで落とし込んでいる、という役割分担だと理解しておくとよいでしょう。

器具の選び方:ショックアブソーバと最大使用質量

墜落制止用器具の選定には、フルハーネス型か胴ベルト型かという選択のほかに、フックの取付位置に応じたショックアブソーバの種別、そして作業者の体重に応じた最大使用質量という2つの基準があります。

  • 第一種ショックアブソーバ: 腰の高さ以上にフックを掛けて作業を行う場合に選定。自由落下距離1.8mで墜落を制止したときの衝撃荷重が4.0キロニュートン以下のもの。
  • 第二種ショックアブソーバ: 鉄骨組み立て作業等、足下にフックを掛けて作業を行う必要がある場合に、フルハーネス型とあわせて選定。自由落下距離4.0mで墜落を制止したときの衝撃荷重が6.0キロニュートン以下のもの。

また、墜落制止用器具には使用可能な最大質量(85kg用または100kg用。特注品を除く)が定められており、器具を使用する人の体重と装備品の合計質量が、この最大質量を超えないように選定する必要があります。

体格の大きい作業者が軽量タイプの器具を使っていないか、という点も、実は安全管理の質を測る一つの目安になります。

移動時の掛け替え事故を防ぐ「二丁掛け」

高所を移動しながら作業する場合、ランヤードを取付設備から外して次の場所に掛け替える瞬間は、墜落制止用器具が機能していない無防備な状態になります。

この掛け替え時の墜落を防ぐため、厚生労働省のガイドラインは「二丁掛け」という方法を推奨しています。

フック等を2つ用意し、一方を掛けたままもう一方を次の取付設備に掛けてから、最初のフックを外すという手順を踏むことで、常にどちらか一方が取付設備に接続された状態を保つ考え方です。

フルハーネス型で二丁掛けを行う場合は、2本の墜落制止用のランヤードを使用することが基本とされています。

この「常に1本は接続された状態を保つ」という発想は、ロープアクセス作業におけるメインロープとライフラインの2系統運用にも通じる考え方です。ロープ高所作業特別教育でメインロープとライフラインの併用が義務付けられている経緯については、上記の記事で詳しく解説しています。

点検・保守・廃棄基準

厚生労働省のガイドラインでは、墜落制止用器具の点検・保守・保管について、責任者を定めて確実に行い、管理台帳等に結果を記録しておくことが求められています。

点検は日常点検に加えて、半年を超えない間隔での定期点検が必要です。点検項目には、ベルトの摩耗・傷・ねじれ、縫糸のほつれ、金具類の錆・腐食、ランヤードの摩耗・傷、巻取り器のロック機能などが含まれます。

特にランヤードのロープ等は器具の中で最も寿命が短い部品とされ、1年以上使用しているものは短い間隔での目視チェックが必要とされています。

また、廃棄基準として「一度でも落下時の衝撃がかかったものは使用しない」「点検の結果、異常や劣化が激しいものは使用しない」という2点が明記されています。落下を経験した器具は、外見上問題がなさそうに見えても、内部の繊維が損傷している可能性があるため、そのまま使い続けてはいけないというのがこの基準の趣旨です。

保管方法についても、ガイドラインは具体的な条件を挙げています。直射日光が当たらず、風通しがよく湿気がなく、火気や放熱体、腐食性物質が近くにない、ほこりが散りにくい、ねずみが入らない場所での保管が求められています。

現場の資材置き場や車両の荷台に無造作に置かれた器具が劣化を早めていないか、という点も、実は安全管理の丁寧さを見る手がかりになります。

規格不適合品が実際に見つかっている

ここまでは制度上のルールですが、実際に市場で何が起きているかにも触れておきます。

厚生労働省は、国内で販売されている墜落制止用器具の安全性を確認するため、毎年度「買取試験」を実施しています。令和5年度の買取試験(フルハーネス型40種、胴ベルト型10種を対象に実施)では、一部の製品が規格で定める構造・性能・強度等の要件を満たしていないことが判明し、2024年4月に厚生労働省が販売者への回収要請と使用中止の注意喚起を公表しました。同様の公表は2023年2月にも行われています。

規格不適合が確認された製品には、型番の記載がないものや、聞き慣えない海外メーカーのものが多く含まれていました。規格に適合しない製品が使用された場合、労働災害の発生につながるおそれがあるとして、厚生労働省はメーカー・ユーザー・販売業者の関係団体に対して注意喚起の通達を発出しています。

価格の安さだけで選ばれた出所不明の器具が、実際に労働災害のリスクを高める形で市場に流通していたという事実は、発注者にとっても軽視できないポイントです。

発注担当者へ
高所作業の業者を選ぶ際、次の点を確認しておくと、装備面での安全管理の質が見えてきます。
  • 使用している器具が2022年1月以降の新規格(墜落制止用器具の規格に適合するもの)か
  • フルハーネス型と胴ベルト型を、作業の高さに応じて使い分けているか
  • 器具の点検・保守を記録する管理台帳を運用しているか
  • ランヤード等消耗の早い部品を、使用年数に応じて交換しているか

まとめ

墜落制止用器具は、2019年の法改正によって「安全帯」から名称・範囲・性能要件が大きく見直され、2022年1月には経過措置も完全に終了しています。

フルハーネス型が原則という大枠だけでなく、ショックアブソーバの選定基準、点検・廃棄基準、そして規格不適合品が実際に流通しているという実態まで押さえておくと、業者の安全管理体制を見極める視点がより具体的になります。

特定の資格や講習の話は別記事に譲りますが、「どんな器具を、どう管理しているか」は、見積書や現場写真だけでは分かりにくい部分だからこそ、発注時に確認する価値があります。

よくある質問

Q. 安全帯と墜落制止用器具は同じものですか?
A. 実質的には同じ器具を指しますが、法令上は2019年の改正で「安全帯」から「墜落制止用器具」に名称が変わっています。また、改正後に「墜落制止用器具」として認められるのは胴ベルト型(一本つり)とハーネス型(一本つり)のみで、従来の胴ベルト型(U字つり)は含まれません。

Q. 旧規格の安全帯は今も使えますか?
A. 使えません。経過措置は2022年1月1日で終了し、2022年1月2日以降は旧規格に基づく安全帯の製造・販売・使用がすべて禁止されています。

Q. 墜落制止用器具の点検はどのくらいの頻度で必要ですか?
A. 厚生労働省のガイドラインでは、日常点検に加えて、半年を超えない間隔での定期点検が必要とされています。ランヤードなど摩耗が早い部品は、より短い間隔での目視チェックが推奨されています。

Q. 墜落制止用器具は何メートルから必要ですか?
A. 高さ2m以上で作業床の設置が困難な箇所では、原則として墜落制止用器具の使用が必要です。そのうえで、フルハーネス型を使うか胴ベルト型でも許容されるかの境目は6.75mに設定されており、これを上回る高さではフルハーネス型が必須になります。

Q. 規格不適合品はどうやって見分ければいいですか?
A. 発注者が製品単位で見分けるのは容易ではありません。厚生労働省が買取試験で規格不適合を確認した製品は、型番の記載がないものや聞き慣れない海外メーカーのものが目立ちました。業者に対して、使用している器具のメーカー・型番が明確か、取扱説明書が備わっているかを尋ねることが、間接的な確認方法になります。

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